腐ったこの世界で
次の日もあたしは朝早くに目が覚めてしまった。元来、早寝早起きの生活だったあたしには貴族の生活リズムとはずれているらしい。
「まだ寝ていますか? それとも着替えますか?」
イリスが窓のカーテンを開けながら尋ねるのを聞いて「…起きます」すぐに寝台から抜け出した。クレアが着替えを手にあたしの側に寄ってくる。
「伯爵は?」
「まだおやすみ中です」
「ふーん……」
起きているのは使用人ばかりらしい。伯爵が起きるのを待っていたら朝食はだいぶ先になるだろう。イリスは先に食べますか、と聞いてくれたけどあたしはそれに首を振った。
これは願ってもいないチャンスだ。あたしはこの屋敷に来てから伯爵に振り回されっぱなしだから、まだ屋敷のことをよく知らない。
「屋敷を見て回ったら伯爵は怒ると思う?」
「それは大丈夫だと思いますが…」
イリスの言葉をにあたしはニヤリと笑う。これは探検に出掛けるしかない。足を動かすことも必要だ、ってお医者さまも言ってたし。
動きやすい革靴を出してもらってあたしは屋敷の中を探索することにした。二人には仕事をしていて欲しい、って言ったけどイリスはそれはできません! って言ってついてきた。
「この屋敷って伯爵しか住んでないの? 伯爵の家族は?」
「王都のこのお屋敷には伯爵とアリアさまだけです。ご両親は地方で隠居生活をなさってますよ」
なるほど。だから誰にも会わないわけか。もしも伯爵の奥さんとかが居たら、あたしは全力で逃亡を謀ったんだけど。