腐ったこの世界で
あたしはイリスとクレアに説明してもらいながら広い屋敷の中を歩き回った。というか、本当に無駄に広いな…。
案内される先々であたしは使用人のみなさんに挨拶された。その度にあたしは固まってしまう。
「そんなに緊張なさらなくても…」
「そうなんだけどね…」
習慣はなかなか消えない。ついこの間まで存在すら認知されない生活だったから、挨拶されることに慣れないのだ。
クレアたちは一通り、屋敷の中を案内するとあたしを中庭に案内してくれた。一面の薔薇があたしを出迎える。
「わぁ…!」
「お気に召しましたか? 庭師たち自慢の薔薇の花壇です」
確かにこれは自慢だ。あたしの視界の先では色とりどりの薔薇たちが華やかにその美しさを輝かせている。
歩き回ったことであたしの足は痛くなっていたが、そんな痛みもどこかに吹っ飛んだ。
「すごい…」
「少し先に四阿も温室もありますよ」
クレアたちに進められるままに庭の中を散策する。日射しの柔らかな日に日向ぼっこでもしたら気持ち良さそうだ。
微かな高揚感を抱えながら庭を抜ければ、長身の影があたしの視界を遮った。あたしはびっくりして立ち止まる。
「こんなところに居たのか」
「伯爵…」
そこには着崩した服装の伯爵が立っていた。