腐ったこの世界で
四阿に行けばすでに朝食が並んでいた。相変わらず朝から豪勢な食事。あたしと伯爵しか食べないのに。
「午後からは勉強を教える教師が来る」
「うん」
「僕は今日は仕事で出掛ける用事があるから何かあったら執事に言うと良い」
思わず嫌な顔をしたら伯爵に笑われた。嫌いじゃないんだよ。ただ最初の印象が強すぎて、どうも嫌われているような気がしてならないんだ。
そんなことを考えていたからか、屋敷の方から歩いてくる執事を一番に見つけてしまった。給仕の人が淹れてくれたアイスティーを飲みながら、花壇の向こう側から歩いてくる執事を見る。
……やっぱりどうしても身構えちゃうわ。
「魔療師の方がお見えです」
「ずいぶん早いな。応接室の方に案内してくれ」
「かしこまりました」
お辞儀を返した執事が再び立ち去るのを見届けてから、あたしはグラスを置いて立ち上がった。それを見た伯爵が不思議そうな顔をする。
「どこに行く?」
「え…だって来たんでしょ? 待たせたら悪いじゃない」
言ったら伯爵はびっくりしたような顔であたしを見た。そんなに変なことを言ったつもりはないんだけど。
いつまでも立ち上がらない伯爵に首を傾げれば苦笑した。それからゆっくりと立ち上がる。
「まったく…君には驚かされるね」
あたしには伯爵に笑われた理由がさっぱり分からないけど。