腐ったこの世界で
伯爵の案内で一階の応接室に行けば見慣れない女の人が座っていた。白衣を着た豊かな赤毛の女性。歳は伯爵よりも少し上に見えた。伯爵がいくつかなんて知らないけど。
「君が魔療師かな?」
「…えぇ」
答えた声は不満そうだった。伯爵が部屋に入ってから一度も伯爵を見ないし。伯爵もそれに気がついているはずなのに何も言わない。
「良かった。彼女を見てもらえるか?」
伯爵に背中を軽く押されて彼女に近づく。彼女はあたしを見たあと「座って」とソファーを指差した。
あたしはびくびくしながら目の前のソファーに座る。魔療師なる人は初めて見た。見た感じは普通の人だけど。
「足が悪いんだっけ?」
頷けば、彼女があたしの足元に座り込む。そのまま触診のように足を診たあと、眉を寄せた。あたしは思わず首を傾げる。
「どうかしました?」
「いや……歪んだ骨の形成をすれば元に戻ると思います」
彼女の言葉に伯爵は嬉しそうに笑う。「どれくらいで治る?」「…一週間ってとこでしょう」彼女の言葉にあたしは驚いた。
「そんなに早く治るの?」
「魔力によって細胞の治癒能力を最大限に上げれば」
……難しくてよく分からなかった。納得していない、という顔のあたしに伯爵は苦笑する。
「それじゃあ一週間、よろしく頼む」
女性は黙って頭を下げた。