腐ったこの世界で


彼女は「ジーナ」と名乗った。普段は庶民相手に診察しているらしい。ちなみに貴族が大っ嫌いなんだとか。

「まったくあいつの頼みじゃなかったら引き受けなかったのに…」

聞けばあたしを最初に診たお医者さまとは幼馴染みという名の腐れ縁らしい。ジーナはあたしの足に手をかざしながら忌々しそうに舌打ちした。
こうやってジーナに治療してもらうのは今日で三日目。足は…たぶん良くなっている気がする。

「…でも変なのよねぇ…」
「え?」

三日間の治療の間、ジーナは時々首を傾げたりした。気になるあたしは理由を聞くのにジーナはいつも首を振るだけで教えてくれない。
足は治ってきてるから、の一点張りなのだ。そこがあたしの不安を煽るんだけどなぁ。

「さぁ、今日は終わり! 続きはまた明日ね」

血色がよくなったあたしの足に満足したように笑えば彼女は荷物をまとめて玄関に向かう。あたしは見送るためにジーナの後ろを追いかけた。
ジーナが帰ると入れ替わるように、学問の教師が屋敷にやってきた。あたしは先生と一緒に自室に戻る。

「昨日の宿題は終えましたか?」
「もちろんです」
「よろしい。さっそく答え合わせをしましょう」

あたしは先生と一緒に自室に入る。午前中は足の治療に専念し、午後は勉学に励む。それがあたしの日常と化し始めていた。


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