腐ったこの世界で
日が暮れるまで勉強する毎日。知らないことを知ることは、あたしにとって楽しいこと以外の何物でもなかった。特に文字を習得してからは教師も驚くくらいの速さで勉強を進めている。
「熱心だね」
近くで聞こえた声に驚いて顔を上げれば伯爵がすぐ後ろに立っていた。気づかなかった。いつの間に部屋に入ったんだろう。
さっきまで出掛けていたのか、伯爵は堅苦しそうな服を着ていた。最近の伯爵は忙しそう。そういえば仕事って何してるんだろう。
「何を読んでいるんだ?」
無言で表紙を見せれば伯爵の目が懐かしそうに細められる。聞けば伯爵が子供の頃に読んだ本なんだって。
「全部読んだの?」
「一通りね」
凄い。この本棚いっぱいに置いてある本を読んだんだ。「先生が飲み込みが早いって誉めてたよ」脈絡のない誉め言葉に恥ずかしくなる。
あたしの学習能力は教師も驚くほどのものらしかった。教えられたものは一回で覚え、ほとんど間違えることはない。
「近年稀に見る才女だって誉めていたよ」
「誉めすぎだよ」
つい恥ずかしくなってぶっきらぼうに言えば、伯爵が笑った。本当は伯爵に言っていないことがある。
最初の頃の初等教育の時。読み・書きの学習の時に、不思議な既視感を覚えたのだ。前にもやったような、そんな感覚。