腐ったこの世界で


伯爵はあたしの足元を見る。変な方に曲がっていた足は、ここ数日でほぼ普通の状態まで治っていた。

「そういえば今日には足の治療が終わるんだっけ?」
「あぁ、うん」

治療を初めてから今日で一週間だ。最初の頃は治っているって実感は沸かなかったが、さすがに今は治ってるんだって思える。
歩いても痛くないってことは初めてだった。歩きやすい。たぶん、今なら走ることだってできる気がする。
足が治ったら自分の足で街を歩いたりしたいなぁって思っていたら外側からドアを叩かれた。

「どうした?」
「魔療師さまがいらっしゃいました」

イリスの言葉にあたしは立ち上がる。なぜか伯爵も一緒に立ち上がった。「最後だから挨拶をしないとね」胡散臭かったけど、言ってることは真っ当だから何も言わないでおいた。
応接室に行けばすでにジーナが待っている。あたしを見て笑ってくれたのに、後から入った伯爵を見て顔を歪めた。

「こんにちわ、ジーナ」
「こんにちわ。余計な人も来たみたいけど」

辛辣な言葉にあたしも伯爵も笑う。こんな風に言われるといっそ清々しかった。あたしはジーナの前にあるソファーに腰かける。ジーナはすぐにあたしの足に手をかざした。
とたんに足がじんわりと温かくなる。ジーナに聞けば治癒の魔術が効いていることらしかった。


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