腐ったこの世界で


一通り治療を終えたあと、いつもならさっさと帰宅するジーナが珍しく話があると言って残った。
どうしたんだろう。いつもなら駆け足で屋敷から帰っちゃうのに。

「実はね、アリアのことなんだけど」
「え?」

いきなり名前を呼ばれてびっくりする。あたし? なんかしたっけ? 伯爵も笑顔を引っ込めてジーナを見た。

「なんですか?」
「治療をしてみて思ったんだけど、アリアは魔力の耐性が強い。それも人よりもずっと」

あたしにはジーナの言っていることがよく分からなかった。困惑顔のあたしを見て、ジーナが簡単に説明してくれる。
つまり、あたしは人よりも魔術が効きにくい体質らしい。だから治癒の魔術も中々作用しなかったとか。気づかなかったけど。

「そういう体質は魔力を持つ者に現れると聞いたが?」
「えぇ。でもアリアから魔力は感じない」

それはとても奇妙なことだと言う。魔力の耐性がある者は大抵、無意識に自分の魔力で膜を張るように己を守っているらしかった。だけどそれがあたしにはない。
ただ、異常なまでの魔力耐性だけがあるのだ。

「それによって生活に支障があるわけじゃないと思うけど…」

言葉を濁すジーナにあたしは不安になる。そんなあたしの気持ちを察したのか、伯爵が頭を優しく撫でた。

「何かあったらまた呼んで」
「ありがと、ジーナ」

お礼の言葉にジーナが笑う。ジーナはまたね、と言って颯爽と部屋から出ていった。


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