腐ったこの世界で


外交官として働くようになってから、俺はこの国が抱える様々な問題に取り組んできた。その問題の最たるものが、闇市場に広がる奴隷売買だ。
彼女は俺が初めて行った奴隷市場で売られていた。

以前から、我がローデリア王国は北のカルバディス帝国と冷戦状態だった。しかしカルバディス帝国が中立国であったアデラート公国を侵略したことにより、二つの国の国交は完全に断たれた。
ローデリア王国はアデラート公国側からこの戦争に参戦し、未だ終息の兆しは見えない。さらにこの戦争により戦争孤児が爆発的に増えてしまった。
そんな彼らが最終的に行き着いた先が「奴隷市場」だ。

『…ここが奴隷市場か…』

ローデリア王国の中で最大の闇市場。カルバディス帝国との戦争を機に急速に成長した市場だ。
俺が外交官として働くようになってから主に担当しているのは、外国から連れ込まれてくる奴隷商品たちのこと。
外交官としてこの問題ばかりやっている。というかこの問題しかやっていない。

『新顔か?』
『……まぁね』

奴隷市場の門番は俺を値踏みするように見てから、満足そうに頷いた。大方、俺の成金趣味みたいな服装に満足したんだろう。
門番は恭しくお辞儀をしながら市場への門を開く。俺は市場を見て、ジェラルドが奴隷市場に行くときは趣味の悪い服装で行け、と言った意味が分かった。
中は成金貴族や豪商たちで溢れていた。すれ違う人間たちはみんな、趣味の悪いキラキラした服を着ている。

『…ずいぶんと人が居るんだな』
『そりゃあ10日ぶりの奴隷売買ですから』

聞いてもいないのに門番が答える。俺はなるべくしかめ面にならないように気を付けながら、闇市場に足を踏み入れた。


< 49 / 117 >

この作品をシェア

pagetop