腐ったこの世界で




目覚めは最悪だった。
寝ていたところを思いっきり蹴られて起こされた。「っ、」咳き込みながら顔を上げれば人買いがあたしを見下ろしていた。

「いつまで寝てやがる。早くしろ」

周りを見れば既にみんなは足枷を着けて入り口に並んでいた。一番後ろに並んでいたアンが、気遣わしげにあたしの側にやってきた。

「大丈夫?」
「うん…」

蹴られた背中が痛い。涙が滲んできたけど、あたしはそれを手の甲で拭った。
泣いたって何も変わらない。誰も助けてなんかくれないんだから。
あたしはなんとか自分で立ち上がって足に絡み付く鎖に顔をしかめながら、ゆっくり歩き始めた。
それからあたしたちは、揃って一番奥の大きな部屋につれてかれた。中央の一段高いところに立っている男が、声高に叫んでいる。

「おらぁ! 早くしろぉ!」

その声と共に、たくさんの人間が床に置かれた銀の檻に入れられていく。
アンや他の子達も、あたしから引き剥がされて檻の中に容れられた。

「これから客が来るからな。愛想良くしろよ?」

人買いが下卑た笑みを浮かべながら檻の中のあたしに言う。誰がこんなとこに容れられて笑う奴がいるっていうのよ!
あたしの反抗的な目を見つめ、人買いは唾を吹きかけた。あたしは反射的に顔を背ける。
人買いの嘲笑うような声がいつまでも耳に残った。


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