腐ったこの世界で
足を踏み入れた瞬間、独特の臭いを感じた。腐臭にも似たそれに、思わず顔をしかめる。
中にはたくさんの檻。そこには人が1人入っていた。ほとんどが女ばかり。誰もが虚ろな顔で座り込んでいた。
『こんなことが本当に行われていたのか……』
ローデリア王国では奴隷売買も奴隷私有も認められていない。しかし戦争で市場が拡大してから、奴隷市場は以前よりも活発になってしまった。
商品のほとんどが戦争で両親を失った者たちばかり。行く当てのない子供たちを人狩りは言葉巧みに、時には力に訴えて集めるのだ。
『旦那ぁ! 良い商品が入ってますぜぇ!』
値踏みするような視線が体にまとわり付く。不快だ、という気持ちを押し隠し、俺は檻を一つ一つ観察した。
どの檻に入ってる少女たちも生気を失ったような目で俺を見返してくる。それも無理ないだろう。こんなところに押し込められて、喜ぶ奴などいない。
俺は檻を順々に観察して「っ、」鋭い視線を感じた。反射的に視線を追いかける。
『……子供?』
見つけたのは足枷をはめられた少女。触れれば折れそうなほど細い足には不格好なほど大きな足枷だった。
だけど気になったのはそこではない。少女の周りを見回す、触れれば斬れそうなほど鋭い視線だった。
誰もが死んだような目で座っている中、彼女だけが生気溢れているよう見えて。檻の中に入っている奴隷たちの中で唯一「人間」のように思えた。
『……ずいぶん不機嫌そうな顔をしている』