腐ったこの世界で

*――秘密



王宮は大雑把に分けると、政務を取り仕切る外宮と王の私的空間である内宮に別れる。外宮はさらに内政を行う所と軍部に別れていた。

「レオンくーん!」

外交官執務室を出たところを見計らったのように聞こえた声に、俺は思わず脱力する。背後を振り返れば帯剣したジェラルドが立っていた。
不快感を隠そうともしない俺に苦笑を漏らしながら、ジェラルドが俺の隣に並ぶ。なんでこんなところにこいつが居るんだ? 軍は今演習中だろう。

「お前、演習が嫌で逃げ出したのか」
「なんでそうなる。親衛隊は演習は免除。何が起こるか分からないご時世だからね」

ジェラルドが言いたいことがなんとなく分かって、俺はそれ以上何も聞かなかった。
我がローデリア王国はカルバディス帝国と戦争状態にある。情勢が不安定な今、陛下の御身は絶対的に安全とは言えなかった。
こんなんでも将軍職なんかをやってるジェラルドは、王国一の猛将と言われたリンゼイ大将軍に師事し、今となっては王国随一の戦闘能力を持っている。こんなんでも。

「お前に陛下を任せるなんて。…世も末だな」
「お前は俺をなんだと思ってるわけ」

落ち込むジェラルドを鼻で笑う。こんな俺、アリアも知らないんだろうな。

「お前は紳士面してるけど腹は真っ黒だよな」

俺を見て笑うジェラルドの膝裏を思いっきり蹴っ飛ばしておいた。


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