腐ったこの世界で
やがて練習が終わってアリアがこっちに走ってくる。頬をわずかに上気させるその姿に、思わず笑みが浮かんだ。
「早いですね! お仕事、終わったんですか?」
「約束したからね」
アリアの顔が嬉しそうにほころぶ。あぁ、俺はたぶん。彼女のこんな顔が見たくて思わず「買う」なんて言ってしまったんだろう。
「さぁ、ディナーを一緒に食べようか」
腕を差し出せばアリアが戸惑ったような表情をする。それでも腕を差し出せばアリアは俺の腕を掴んできた。そのまま一緒に歩き出す。
「ずいぶんとうまくなったんだね」
「やっと足を踏まなくなったところです…」
顔をわずかに伏せるアリアはまだまだ下手だと思っているらしい。初めてであそこまで踊れたら上手と言っても過言でもないのに。
「今度は僕と踊ろうか」
「え!?」
本気で焦るアリアに俺はにっこりと笑いかける。アリアは冗談だと思ってるようだが、俺は本気だ。
そのうちアリアのことを隠してはおけなくなる。早めに、それこそ悪い風評がたつ前にお披露目するべきだろう。
「今度は散歩に行こうか」
社会に出るまではまだ時間がある。それまではアリアと過ごす時間を増やそう。
彼女の世界が大きくなる前に。俺がその一歩を支えたいから。
「伯爵?」
「なんでもないよ」
不思議そうに見上げるアリアに安心させるように微笑む。俺はアリアの背中を支えて、ゆっくり歩き出した。