腐ったこの世界で
大きな銅鑼の音と共に大扉が開く。それと同時に大量の人間が奴隷たちが並べられている部屋に入ってきた。
一目で金持ちや貴族の奴らだと分かる。物好きの変態たちめ。あたしの檻を覗く奴らを睨み付けるけど、外に居る奴らはそれを笑うだけ。
ここに居る誰かに、あたしは買われるのだろうか。でも足の悪いあたしを買う物好きが居るのか?
「……それこそ変態くらいか」
あたしは物好きたちの好機の視線から逃れるように、檻に背中を預けて座った。
足が痛い。痛いって言ったところで何もならないんだけど。
あちこちで商談の声と笑い声が聞こえてくる。それと微かに檻が開けられる音も。
あたしはその音の正体を見たくなくて、目を閉じた。このまま眠って永遠に目覚めなければ良いのに。
「――っや!」
微かに聞こえた声に目を見開く。振り返れば檻の向こう側に、腕を引かれたアンの姿があった。
「アン……!」
思わず檻に駆け寄る。アンもそれに気づいたが、お互いにどうすることもできなかった。
アンは腕を引いているあの男に買われたのだろう。ならばアンの所有権はあいつにある。それにあたしは檻の中。
アンを助けることも側に行くことすら、あたしにはできなかった。