腐ったこの世界で


「練習の邪魔をしたから怒ってるのかな?」
「そうじゃないけど…」

最近の伯爵は変だ。早くに帰ってきてはあたしの様子を観察してる。一緒にご飯を食べようとしてくれてるみたいだけど、仕事は大丈夫なのかな。

「無理して早く帰ってこなくても大丈夫ですよ? 生活にも慣れてきたし」
「うん。でも僕がアリアと一緒に居たいから」

……うん。最近、ちょっと思ってたけどやっぱり伯爵はって女ったらしかも。あたしが思わず渋面になれば、伯爵が笑った。

「せっかくだから僕と踊ろうか」
「…はっ!?」

いやいやいや。この前やっと足を踏まなくなったって言ったのを忘れちゃったのだろうか。今だってステップを間違えないようにするのでいっぱいいっぱいなのに。
伯爵は笑顔で逃げ腰のあたしを捕まえてステップを踏み出す。あたしは慌てて伯爵に合わせて足を動かした。

「上手いじゃないか」

つまずかないで踊るあたしに、伯爵が笑う。そんなわけない。今だって必死だもん。でもさっきよりも踊りやすい。

「……伯爵のリードが上手いんです」

実際、伯爵のリードは完璧だった。足が勝手に動いていく。あたしはただ伯爵に身を任せていれば良かった。
一曲分丸々踊りきって、伯爵が優雅にお辞儀する。あたしもぎこちなくお辞儀をすれば、恥ずかしさが込み上げてきた。


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