腐ったこの世界で
馬車は街中を軽快な足取りで通り抜ける。あらゆる工房が建ち並ぶ街道に入り、馬車はやがて一軒の店の前で止まった。
どうやら仕立屋さんみたい。前に来たお店とは違った。あたしは伯爵に促されるままにそのお店に入る。すぐに白髪の貴婦人がやってきた。
「あら?」
貴婦人はあたしの背後を見て驚いたような顔をした。それから手前に立つあたしを見て納得したように何度も頷く。
「お久しぶりでございますね。ミス・クリスティーナのドレス以来ですか?」
「そうですね。今回もドレスを頼みたいのですが」
貴婦人はにっこり笑ってあたしに丁寧に頭を下げてくれた。あたしたちは案内されるままに店の中央にあるソファーに座る。
綺麗な内装のお店だ。すぐに若い女性が紅茶を持ってきてくれる。それを受け取りながら、あたしは伯爵を見上げた。
「あのね?」
「ん?」
「ミス・クリスティーナって?」
聞いたら伯爵はにっこり笑っただけだった。む。秘密ってわけね。不満な顔をしてみたけど、伯爵は何も言わなかった。