腐ったこの世界で
さっきの貴婦人はこの店の店主らしい。伯爵と二人で紅茶を飲みながら待っていたら、何人かの女性を連れて戻ってきた。
貴婦人はミセス・エリアナと名乗った。それからあたしの目の前に何枚かの紙を置く。それには形の違うドレスが描かれていた。
「気に入ったのがありましたらおっしゃってください。それを元に新しいデザイン画を描きますので」
ギョッとミセス・エリアナを見たけど彼女は本気だった。伯爵も何も言わないから決定事項なのだろう。
まさか新しいドレスを作るなんて。しかも形から新たに作るの? びっくりして固まっている間に話はどんどん進んでいく。
「こんなのはどうかな?」
伯爵が見せてくれたのは襟ぐりの大きく開いたドレスだった。あたしは慌てて首を振る。
それは胸に自信がある人が着るドレスだよ。間違ってもあたしが着るようなものじゃないって。
「そういった形のものがよろしいですか?」
「いやいやいや…」
「そうですね。こんな雰囲気でデザイン画を作ってもらえますか?」
ミセス・エリアナと伯爵はあたしのことそっちのけで話を進めていく。ちょっと。あたしのドレスなのにあたしは無視なの?
後ろに控えていた女性たちは紙とペンを片手にデザインを描いていく。あたしは紅茶のおかわりを頂きながら伯爵を見た。
「ドレスを新しく作らなくてもまだあるじゃない。袖を通してないのだって」
「これは特別なドレスだからね。君の社交界デビューのドレスだ」
ふーん。社交界デビューの……
「はっ!?」