腐ったこの世界で


社交界デビュー? いつの間にそんなことになったの!? 目玉が転がり落ちそうなほど驚いているのに、当の伯爵は余裕の顔だ。
あたしは伯爵の首を絞めて問い詰めたい気持ちになったが、ここが外だということを思い出して必死に我慢する。

「社交界デビューなんかしないからね」
「照れてるのかい?」

ちっがう! そうじゃないことは見れば分かるでしょっ! あたしが今にも噛みつきそうな顔で見つめているのに、伯爵は余裕の笑顔だ。
やがてデザインを描き終えたらしい方たちがデザイン画を片手に戻ってくる。あたしはそれを恐る恐る受け取った。

「わぁ…!」

そこには襟ぐりを強調したドレスたちが描かれていた。どれも華やかなものばかり。あたしはついついデザイン画を手に取って眺めてしまった。
色とりどりのカラードレス。シフォンを大量に使ったものや造花をあしらった物もあった。どれもあたしには似合わなそうに思える。

「気に入ったのはあった?」
「うーん……」

どれも可愛い。素敵なドレスだと思う。だけど自分に似合うかどうかは別だ。というか、確実に似合わない気がする…。
伯爵は遠慮するあたしに苦笑しながら、あたしの手元のデザイン画を覗き込んだ。そこから一枚の紙を抜き出す。

「これは?」


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