腐ったこの世界で


馬車は目抜き通りを抜け、人通りの少ない街道に入る。あたしにはどこに向かってるのか分からないが、屋敷でないのは確実だ。

「伯爵、これって屋敷に向かってないよね?」

あたしの言葉に伯爵が「おや?」って顔をした。こいつ、確実にあたしが気づいてないって思ってたな。そんなあたしの心が分かったのか伯爵がごめんね、と謝った。

「実はハイルパークに寄ろうかな、と」
「ハイルパーク?」

それってどこだろう。あたしが知ってるのは伯爵が連れてってくれたところばっかりだ。それ以外は知らない。
目を丸くするあたしに伯爵は楽しそうに笑った。やがて馬車は静かに止まる。御者の人が外側から扉を開けてくれた。
伯爵が先に馬車を降りてあたしに向かって手を差し出してくれる。おずおずとあたしはその手を受け取った。

「足元に気をつけて」

促されるままに馬車から足を下ろす。その瞬間、強く風が吹いた。思わず目をつむる。「もう大丈夫だよ」優しい伯爵の声に目を開けて、映し出された光景に驚いた。
そこは広大な新緑溢れる公園だった。舗装された遊歩道には日傘を射した貴婦人や、エスコートする紳士が歩いている。遠くには噴水もあるようだ。

「すごいね。こんなとこあったんだ」
「二代前のハイル公爵が陛下のために作った公園なんだ」

ふーん、そうなんだ。王様のために公園を作るなんて凄すぎるね。しかもこんなに大きいし。


< 69 / 117 >

この作品をシェア

pagetop