腐ったこの世界で
アンの姿が大扉の向こう側に消える。あたしはただそれを見つめることしかできなかった。
悔しい。どうしてあたしはこんなとこに居るのだろう。誰もが当たり前に持っている自由を、どうしてあたしは持っていないのだろうか。
自由を奪う足枷を恨みがましく見ていたら、突然腕を引っ張られた。そのまま檻の際まで引っ張られると、あごを掴まれる。
「っ、」
目の前には下卑た笑みを浮かべた中年の男。微かに酒気を帯びていた。こいつ、酒飲んでるな。
男はあたしの顔を舐め回すように眺めると、ニヤッと笑った。それあたし生理的嫌悪感を覚える。だけど腕をがっちり掴まれてるから、離れたいのに離れられなかった。
「中々の上玉だなぁ、お前。磨けばそこそこになりそうだ」
男があたしの頬を撫でるから、思わず顔を背けた。それが男には気に入らなかったのだろう。思いっきり頬を叩かれた。熱っぽい痛みが頬に広がる。
「生意気な小娘め……だが調教のしがいはありそうだな…」
物騒な言葉に体を強張らせれば男が大笑いをする。「決めた。お前にしよう」男はそう言って人買いの方へと歩いていった。値段の交渉をするためだろう。
あたしは悔しくて、爪が手の皮を突き破るほど、拳を握り込んだ。