腐ったこの世界で
あたしはイリスとともに伯爵家の馬車に乗せられていた。最初の敗北から3日、被服工房から仮縫いのお知らせが届いたのだ。
伯爵は自分も同行したがっていたが、仕事が抜けられなかったらしい。それでも最後まで名残惜しそうにしていた。最終的に執事に屋敷から追い出されていたが。
「楽しみですね。どんなドレスなんでしょう」
イリスはさっきからずっとにこにこしている。そうしているとイリスも年相応の女の子に見えた。屋敷でもにこにこ笑っていたらいいのに。
仕事に真面目なイリスは、屋敷にいるときは滅多に笑わない。それでもあたし付きになってからは笑顔も見せるようになったんですよ、とクレアは言ってたけど。
イリスは馬車に乗る前から楽しそうで、こういうところはやっぱり女の子なんだなって思った。あたしなんか今から憂鬱で仕方ないのに。
「きっと素敵なドレスなんでしょうね」
「そうね…」
きっとドレスは夢のように素敵なのだろう。それを着るあたしは端から見たら、幸せな人間だ。そのドレスが似合うなら。
絶対に浮く。着こなせる自信もない。むしろドレスに着られてる人間になりそうで怖かった。
「アリア様、顔色が悪そうですけど」
「そうかもしれないわね…」
もはや処刑を待つ被告人のような気分だわ。あたしは移り変わる景色を眺めながら重いため息を溢した。