腐ったこの世界で


ドレスは仕上がったらまた連絡してくれるそうだ。あたしたちは乗ってきた馬車に乗って、屋敷に戻る。その途中、馬車は賑やかな目抜き通りを通った。
賑やかなその様子にあたしは思わず物見窓にかじりつく。そんなあたしを見てイリスが小さく苦笑した。

「気になりますか?」
「え?」
「ドレスを見たときよりも目が輝いていますもの」

イリスに言われて、自分でも心が弾んでるのが分かった。だって伯爵に引き取られてからずっと屋敷にいるんだもの。
道には露店が開かれ、様々な品が並んでいる。通りには買い物をしているであろう、人たちで溢れていた。

「すごいね…」
「少し、歩いてみますか?」

思いがけない申し出にびっくりしてイリスを見れば、いたずらっ子みたいな表情で笑うイリスと目が合った。そんなイリスを見てあたしは頷く。
あたしが頷くのを見て、イリスが御者に声をかけた。間もなく馬車がゆっくりと止まる。御者が扉を開けてくれるのを待って、あたしは街に足を降ろした。

「わぁ…!」

街中の熱気が直に感じる。目に付くもの全てが珍しくて、あたしはついつい辺りを見回してしまった。イリスも降りるのを待って、あたしたちは露店を見て回る。
並ぶ露店の全てに違うものが並んでいた。中には異国のものとも思えるような品まで並んでいる。

「お、そこの素敵なお嬢さん! ぜひとも見てってくださいよ!」

元気な呼び声に惹かれて行ってみれば、そこは細工屋だった。貴金属から貴石まであらゆるものが宝飾品として売られている。思わずお店に並ぶ品々を眺めれば、店主がすかさず寄ってきた。

「いかがですかな。こちらなんかお嬢さんの白い肌に合うと思いますが」

そう言って差し出されたのは青い貴石の付いた首飾り。精密な細工がされてるそれは、見ただけで値が張ることが分かった。


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