腐ったこの世界で
屋敷に帰ってすぐあたしは楽なルームドレスに着替えた。これだって動きにくいことには変わらないんだけど。
一回、クレアたちが来ている侍女のような服が欲しいと言ったことがある。猛反対されたけど。スカートの裾も膝下くらいで動きやすそうだったのに。
「貴族って面倒ね…」
「アリアさまは珍しい方ですね」
「え?」
「普通は貴族の生活に憧れを持つものですよ」
髪を結い直すイリスに言われて、あたしは顔をしかめた。そーゆーものなのかしら。よく分からないけど。
確かに働く必要のない貴族は労働階級の人間には憧れかも。あたしだって明日の心配をしなくて済む生活に安堵している。でも同時に窮屈だな、って思った。
もちろん衣食住を伯爵に頼ってるあたしが文句を言える立場じゃないってのは分かってる。それでもどうしようもない居心地の悪さを感じるときがあって。
「私も仕事とかしたいなぁ…」
せめてここに居る意味がはっきりすれば、そんな居心地の悪さもなくなるのかもしれないと思った。破格の値段で売られたのに、あたしはこの屋敷でさらにお金を使わせてるし。
「レオンさまはそんなこと、望んでませんよ」
「そこがまた謎なんだよね」
憮然と言ったあたしに、お茶を運んできたクレアが笑う。目的があるから買ったと思ってたのに。
まさか着せ替えをさせたかったとか? ……あたしの中の伯爵のイメージが一気に変な方向に動いてしまった。