腐ったこの世界で
*変な男
この交渉は上手くいくだろう。あいつはたぶん、貴族ではない。だけどこんな所に出入りできるからには、相当の資産を持っているはずだ。
結局、あたしは変態男に買われるのか。そんな風に思ったらなんだか笑えた。頭の中は妙に冷静で、人買いと話す男の背中をただ、眺めていた。
本当はもう、ずっと昔にあたしは壊れていたのかもしれない。
――きっと、あの日から。
「……ずいぶん、不機嫌そうな顔をしている」
聞こえてきた男の声に顔を上げればステッキが目に入った。こいつ、貴族か。イライラしているあたしは声には返事をせず、男に背を向ける。
そんなあたしの行動に男は笑った。でもさっきの男のような下卑た笑みではない。まるで面白いものを見つけた少年のような笑顔だった。
「…こんなとこに容れられて、ご機嫌な奴が居ると思う?」
あまりにもこの場所に似合わない顔だったから、思わず話しかけてしまった。話しかけられた本人は、少し驚いたみたいだけど。
何よ、あたしだって人間なんだから会話くらいするに決まってるでしょ。そんなあたしの心の声が聞こえたのか、男は小さく苦笑した。