腐ったこの世界で

*ドレス・コードは乙女の武器



ドレスはそれから3日ほどで完成した。あまりの仕事の速さに驚けばクレアに笑われる。

「ミセス・エリアナの被服工房は仕事が速いことで有名なんですよ」
「そうなの?」
「えぇ。それなのに完璧な仕上がりで。だから貴族の間でも人気なんです」

なるほど。確かに完璧主義っぽいな、なんてミセス・エリアナの姿を思い出しながら心の中で頷いた。
イリスは被服工房からドレスを取ってくるとそれをさっさと仕舞ってしまう。ちょっとくらい見たかったのに。そうしたらあたしの心の中が読めたのか、イリスがにやりと笑った。

「楽しみはあとに取っておくものですわ」
「………」

明らかに楽しそうなイリスに、あたしは説得を諦めた。それにドレスは一回見てるしね。
ドレスができたということは舞踏会に行く準備が整ったということで。それはつまり、あたしの社交界デビューが近いということだ。
あれから伯爵に何度か掛け合ってみたが伯爵は一度も首を縦に振ってくれなかった。
こうなるとあたしは舞踏会に出なくてはならないわけで。伯爵に恥をかかせてはいけないという思いから、マナー講座にも気合いが入るってものですよ。

「アリアさまはどこから見ても完璧なお嬢様ですよ」
「ありがと…」

踊るあたしの姿を見てイリスとクレアがうっとりと言った。願うべくは、二人の言葉が身内贔屓でないことだけだ。


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