腐ったこの世界で


濡れた髪をイリスがタオルで丁寧に拭ってくれた。それから櫛で艶が出るまで何度もくし梳る。イリスが手入れをしてくれた自分の髪が輝いて見えた。
クレアは手足をマッサージしてくれる。むくみを取るためなんだって。あたしはその心地よさについうとうとしてしまった。

「アリアさま、起きてください」
「服を脱いでこちらをお召しになってください」

クレアに揺り起こされ、席を立たされる。着ていたルームウェアを脱がされた後、インナードレスを着せられた。その上から絹の生地で作られたペチコートを着させられた。

「…この上にドレス着るの…?」
「そうですよ。さらにコルセットも着る方だって居るんですから。アリアさまは必要ありませんけど」

喜ぶべきことなんだろうか。確かに作ったときも腰が細いって褒められたけど、同じくらい胸もないし。
イリスが持ってきたドレスをクレアと二人がかりで着せられた。ドレスの型が綺麗になるように整えられる。

「さぁ座ってください」

再び椅子に座らされ、なぜかあたしの正面にクレアが立つ。満面の笑みが妙に怖かった。あたしはクレアを見上げる。

「クレア…?」
「任せてください。完璧に綺麗に仕上げて差し上げます」

テーブルに並べられた数々の化粧品と満面の笑みのクレア。いくらあたしだって何が起こるのかすぐに分かった。
思わず身を退こうとしたが、後ろに立ったイリスに阻まれた。まさに万事休す。

「大丈夫です。私たちに任せてください!」

こうしてあたしは人生初のお化粧をすることになった。


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