腐ったこの世界で
「――完璧です……!」
クレアの手が顔から離れたとき、あたしは疲れてぐったりとしてしまった。二人は離れたところからあたしの姿を見て、満面の笑みで満足そうに頷く。
「死ぬかと思った……」
それくらい二人の気迫は凄まじかった。顔に色々な物を塗りたくられて気持ちが悪い。ひ、皮膚呼吸が……!
なんとも言えない気持ちになりながらも鏡を覗き込んで――あたしは固まった。
「………………………だれ?」
そこには見知らぬ人があたしのことを見返していた。びっくりするくらいの美人。どう考えてもあたしじゃない。
「アリアさまは元がよろしいから大変映えますね」
「本当に。レオンさまも驚くと思います」
にこにこ笑う二人に、あたしは曖昧に笑った。どうだろう。伯爵は色々なパーティーに出席してるからもっと美人を見ているんじゃないかな。
鏡を見ながら黙るあたしをよそに、クレアはあたしの髪をいじり始めた。イリスはどこからか持ってきた宝飾具をあたしに合わせてそれを身に付けさせていく。
「アリアさまは綺麗な髪をしていますね」
「本当に。全部をまとめてしまうのはもったいないです」
「そうね…せっかくだから一部だけまとめてあとは背に流すことにしましょうか」
二人はあたしの背後でそんな話をするとクレアが手早く髪をまとめ始めた。編み込むように髪の一部を結って宝石のついた髪飾りをつけてくれる。
残りの部分は熱した何か(髪を巻く道具らしい)でクルクルにしてくれた。ますますあたしが見慣れぬ人になっていく。
最後に妙に踵の高い絹の靴を履かせられる。立つのによろめいたらイリスが支えてくれた。
「これで完成です」
「素敵ですよ、アリアさま」
微笑む二人にあたしは曖昧に笑った。