腐ったこの世界で
あたしはイリスが用意してくれたアイスティーを飲みながら一息着く。口許から離したカップに口紅がついていて、なんだか不思議な気持ちになった。
少し昔のあたしはボロボロの服を着て食べるものにも困る生活。もちろん身を飾る余裕なんてあるはずもなかった。
「あるところにはあるのね、お金って…」
びっくりだわ、本当に。想像もしなかった世界。というかそんな余裕もなかった。
伯爵は本当にあたしに気を配ってくれる。びっくりするくらい簡単にお金を使うからいつも驚かされてるけど。
「暇なのかしら…」
そんな筈はない。毎日忙しそうに働いてるし。最近だって書類とにらめっこの毎日だし。
そこまでしてでも連れていきたい舞踏会。……どうしよう。なんだか怪しく思えてきた。何もないといいんだけど。
「パーティーってどんなことをするの?」
すぐ側に控えるクレアたちに聞けば、二人とも困った顔をする。その理由が分からなくて首を傾げればクレアが苦笑を漏らした。
「私どもはパーティーに出席できる身分にありませんから…」
「あ…」
「当家でもレオンさまがご当主になられてからは開いてません。先代のときは定期的に開催していたようですが…」
二人の言葉に、あたしは今さらながらここが「伯爵家」だったことを思い出す。ここに居るとついつい忘れてしまうのだ。身分があるということを。
このローデリア王国では比較的緩いとしても、明確な身分が存在する。それによる大きな差別はないが、それでも身分の存在は大きかった。