腐ったこの世界で
男は相変わらずあたしの檻の前に立っている。無言の視線が背中に突き刺さり、あたしは気まずさのあまり男を見上げた。
「……なに、」
「どうしてそんなところに入っている?」
あまりにも馬鹿馬鹿しい質問に、あたしは目の前の男を見上げてしまった。好きでこんなとこに入ってると思ってんの? だったら医者に頭を見せた方が良いね。
「あんたには関係ない」
「ただの好奇心なんだけどな」
余計に悪いわ! なんなんだ、こいつ。こんな所に来るようなタイプには見えないけど、実はめちゃくちゃ悪い奴とか?
そんなことを考えながら男をにらんでいたら、男は楽しそうにまた笑った。……なんかだんだん胡散臭く見えてきた。
「……ねぇ、もう他のとこに行ったら?」
「どうして?」
「見目麗しい子たちが売れちゃうから」
「……君は?」
あたしは離れた所に立っているさっきの男を指差した。それだけで目の前の男には全て理解できたらしい。納得したようにあたしを見た。
「君は買い手が居たんだね…」
「全然嬉しくないけどね」
その言葉に男が軽く目を見開く。あんた、あたしが買われて嬉しいと思ってたの? ……本当に頭、大丈夫かな。