腐ったこの世界で
予想はしていたが、舞踏会はとにかく華やかだった。集まった人々は生粋の貴族たち。当然のことだけどあたしみたいのは一人も居なかった。
「何か飲む?」
「…いらない」
伯爵があたしのためを思って聞いてくれたのは分かったけど、今は何も喉を通りそうになかった。
だけど時間が経つにつれてだんだんと周りを見る余裕も出てくる。そうなると引っ込んでいた好奇心が顔を出し始めた。
そんなあたしに気がついたのか、伯爵が小さく笑う。
「ちょっとは緊張が解れたみたいだね」
「まぁ…」
思っていたよりも声をかけられなかったっていうのも大きな要因だけど。
――なんて、思っていたら。
「あら、ルーシアス伯爵ではなくて?」
「マーベリック子爵令嬢。お久しぶりです」
「本当に。最近は社交界に出てもすぐにお帰りになってしまうからつまらなく思っていましたの」
声をかけられた伯爵が立ち止まる。あたしは何気なくそちらを見上げて目を見開いてしまった。
伯爵に声をかけていたのはド派手な美女。豊満な胸元が眩しかった。思わずそこを凝視してしまう。
マーベリック子爵令嬢と呼ばれたその人は親しげに伯爵に話しかけていた。それをきっかけに、伯爵の周りにはたくさんの人間が集まり始める。
「お久しぶりですわ」
「今日は遅くまでいらっしゃるの?」
「まぁ、伯爵! お話ししませんこと?」
……集まってるのが女の人ばっかりなのは気のせいだろうか。
人垣に埋まった伯爵の姿はあたしの所からだいぶ離れたところに行ってしまった。すぐに戻ってくるのは無理かもしれない。
そこまで考えて、あたしはにやりとした。
正直に言おう。あたしは自分の好奇心に負けたのだ。