皮肉と剣と、そして俺
「何がおかしいんだ」
「いや、私に頼み込んできた中佐さんを思い出してしまって。
ナオトを帰してやってくれと懇願されましてねぇ」
しみじみと語る魔術師は顎をさすりながら、喉を鳴らしている。
こいつ、猫だな。
ナオトは内心思う。
猫のように気紛れで、人の手を易々とすり抜けていく。
だが、ナオトには一つ気になることがあった。
「中佐が頼み込んだってどういう…」
「まだ分からないんですか?
中佐は貴方を元の世界に帰れるように情報を集めておられて、その過程で私にたどり着いたのです」
ナオトが最後まで言い終える前に、魔術師は溜め息混じりに言う。
あからさまに呆れた表情を見せる魔術師に若干の苛立ちを覚えたが、今は中佐の方が重大だった。
「なら、中佐は俺の為にあんたを寄越したって事か?」
「そういうところです。だから私には貴方を元の世界に返す義務があるのですよ」
自分の知らない所で中佐が動いていたなんて。
ナオトは驚倒した。
さらに魔術師は続ける。
「それと、今回の作戦に貴方を参加させなかった事も中佐の気遣いだと思いますよ」