=凪=
トイレ休憩を済ませ、コーヒーを飲む先輩の顔がまともに見られない。


「疲れたか?もう少しで着くからな」


「どこ……行くんですか?」


「内緒♪」


やっとの思いで口にしたのに、軽くかわされてしまった。


「お前さ、顔上げてみ。気持ちいいぞ」


ヘルメットを着けてくれながら、先輩が言った。


目的地までの道程、恐る恐る顔を上げてみると、そこには今まで体験したこともない世界があった。


流れる景色、街も人も隣を走る車さえも、違って見える。


ヘルメットと、マフラーの隙間から入る風も、気持ち良さを感じる。


『ん?この香り……』



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