=凪=
扉の横で動けないでいた私を、クルミが外へと連れ出した。


出る時にそっと振り向くと、菜津子は最初に入って来た男……陸さんに夢中で話し掛けている。


でも、彼が菜津子のお目当てだなんて、今の私には考えられなかった。


まだ、先輩にも気付かれていない。


とにかくこの場を逃げないといけない。


そんな思いが、私の自由を奪っている。


「どうした?何かあったの?」


お手洗いで、クルミにそう聞かれたけど、言葉の自由まで奪われたようで、上手く説明出来ない。


「とにかく、楽しもうよ!」


そう言われて、重い足取りで仕方なく部屋へ戻った。


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