=凪=
そう、あれは残暑残る秋の日。
あの日の夕暮れは、やはりこんな茜色だったような気がする。
いつものように仕事を終え、帰路に足を急がせていた私の元へ一本の電話が入った。
「おじいちゃんの病院に今すぐ行ける?」
それは母からの電話だった。
以前から病床に伏せていた祖父の顔が目の前に現れた。
私は、わかったと電話を切り、一人暮らしのアパートとは逆にある祖父のいる病院へ足を向け直した。
大丈夫、大丈夫。
そう、心に言い聞かせながら向かった先の病院で、大好きな祖父との無言の別れをしたのだった。