シャボン
午後8時
狭い薄暗い部屋でベッドに横たわりタバコを吸う。


トゥルル…

コールがなる。

「門倉さんお仕事です」



起き上がりお風呂にお湯を張り客を出迎える。



ここは風俗店。
あたしはソープ嬢だ。



「こんばんは」


客を部屋に入れお茶を飲みながら他愛ない話をしシャワーに通す。


男の下半身はすでに大きくなっている。
男って単純だ。にこにこ笑って愛想よくして感じたフリをしていたら自らまたこの店に足を運んでくれる。

ボディソープを泡立て身体を洗ってあげる。

泡は男の身体につけたと思ったら静かな音をたてながらやがて消えて行く。



プレイに入りローションをあえて洗い落とさなかったあたしの奥に強引に挿れられる。


「あっ…気持ちいいよ」



男の息が荒くなっていく。

あたしも合わせて演技をする。ここではあたしは別の人間を演じているのだから。



門倉あおい。
これがあたしのこの店での名前だ。



「あおいちゃん…イクっ」









事が終わりあたしは再びタバコを吸い談話をする。


「あおいちゃんは前職は?どうしてここに入ったの?」

「エステティシャンやってたけどー…何となくかな」
慣れた作り笑いをする。

「へぇ?そりゃまた思いきったねぇ」

男は笑う。

新しい客にはだいたい同じ質問をされる。あたしはただ同じ作り笑いをする。


「また来るからね…今日はありがとう」


客を出口まで見送り部屋に戻る。

使用済みのゴムやティッシュがゴミ箱に溜まりタオルはぐしゃぐしゃで床にはまだローションが残っている。
それらを片付けながらあたしは思う。


男の身体を洗ったボディソープの泡…まるであたしみたい。身体につけたと思ったら静かな音をたてながら消えて行く。排水口に流された泡はどこへ行くんだろう。


なんでこの仕事に就いたの?…か。


過去がよぎった。


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