ブラッディ アリス
「ホント…めんどくさいよ。王子と旧家のお嬢様なんだから顔パスでイイと思うなぁ」
そうしてアリスとカイルは同時にため息をついた。
物騒な世の中だから身分証明書が必要になる。
だから余計物騒なことができなくなる。
これからイイトコなのに…。
アリスはイライラしながら舌打ちをした。
「そう言えばさ、ベルアベスタ家って…一人娘がいなかったっけ?」
カイルは突然思い出したように言った。
それと同時に車は走り出す。
「いるわ。昔はよく遊んだけど…最近はどうしてるのかしら…」
「なんて名前?」
カイルの目が獲物を定めるかのように怪しく光る。
「…まさか殺るつもり?大富豪の令嬢を」
アリスの言葉を聞いたカイルの肩が小刻みに揺れる。
「クククッ」と一人楽しそうに笑うカイルを睨み付けながらアリスは言った。
「キオネ・ブランシュ・ネージュ…。色白でツヤツヤの黒髪。薔薇のように赤い唇。そのせいか、父親にものすごく可愛がられてたわ」
「ふーん…。色白で黒髪…薔薇色の唇…か。娘が死んだらベルアベスタ家当主はどんな顔をするかなぁ…」
カイルは想像しながらまた笑い出す。
「社交界にも顔を出さないのよ…。何してるのかしら…」
アリスは窓の外の遠くを見つめながら、意外にも心配している様子だ。