ブラッディ アリス
Ⅶ
「何か手伝おうか?」
すかさずザリチェに声をかけたのは、カイル扮するカルマだった。
「…ありがとう…。でも、いいの。料理を作るのは、『独りで』がいいの」
ザリチェはカイルの顔をチラッと見ただけで、その後はずっとグツグツと音を立てる鍋の中を見つめていた。
「…そう…。人見知りする方?」
カイルはその場から離れようとはせず、慣れたような口ぶりでザリチェに質問を始めた。
「…する…かな…。やっとノーカやクレスタといるのも慣れてきたとこ…」
ザリチェは時折、鍋の中に調味料をふりかけながら答える。
「クレスタ…って、この家の住人なの?」
カイルはザリチェの動きを細かく観察しながら、何食わぬ顔で椅子に腰掛ける…。
「そう…。今は訓練に行ってるわ…。私の兄の、タウティと一緒に」
「……訓練……?」
「…そのうち…わかるわ…。あなたにも」
カイルから受ける真っ直ぐな視線を気にもせず、ザリチェは鍋の中のスープをすくい、静かにすすって味見をした。