ブラッディ アリス
少し前かがみになったアリスの首に、包丁が軽く食い込んだ。
「…あ…」
タウティはアリスの首が切れないよう、ゆっくりと包丁を離す。
「……本当は臆病ですのね。悪魔から与えられた力で、あんなに多くの命を犠牲にした…あのルーテラ大干ばつを起こしたとは思えない…」
「ルーテラ…大干ばつ…!…あなたは…まだ…幼かったはず…」
ゴクン…とザリチェが唾を飲む。
「…もちろん。当時の記憶なんて…うっすらとしか残ってませんわ…」
アリスが当時まだ5歳だった…13年前のこと…。
南国ルーテラで起こった、大規模な干害。
突如として砂漠化が進み、国民のほとんどが謎の熱病で倒れ、医療不足や食糧不足、水不足で多くの人々が命を落とした。
ほんの半年という期間で、ルーテラの国土全てが砂漠地帯となってしまったという…。
「あの頃、父様と母様がとても忙しそうにしていた…。その頃の二人の会話に…『タウティ』と『ザリチェ』という名前がよく出てきていましたわ…」