ブラッディ アリス
「懐かしい声。…お元気そうね…」
アリスの目線の先には、暗闇でうごめく人の影…。
その影がゆっくり近づいてくる。
「…そんな姿じゃ…もう鏡に問いかけもできないですわね…」
牢の柵越しに現れたのは、ひどく乱れた髪にやつれた顔のシャルル・コクト・ナ・ラソエラ。
「ふふ…『鏡よ、鏡…。世界で一番美しいのは誰?』って…?」
「懐かしいですわ…ふふ…」
二人は囁くように笑いあう。
「あの鏡をお持ちの貴方が…どうしてこうなる前にここから去らなかったのです?」
アリスはゆっくりと柵の前まで行き、シャルル夫人に問いかけた。
「あの子を放っておけるわけないじゃない…。逃げるわけにはいかなかったのよ…」
シャルル夫人は悲しそうに俯く。
「私が察するに、侯爵とキオネは…」
アリスがそう言いかけると、シャルル夫人は細い一指し指をアリスの口にあてた。
「最後だから全部…話します…。だから、何も言わなくていいわ」
弱々しく、シャルル夫人は地面に座り込んだ。