ブラッディ アリス
「こちらが、アリス・アベル公爵様の御部屋でございます」
アリスに用意された部屋は、恐らくこの屋敷内で一番広く造られたと思われる客室だった。
「すごいわね…何部屋あるのかしら?……キッチンとかもあるのね…」
イザベラが誰よりも早く、部屋を隅々まで調べる。
「…この部屋だけ新しいですわね…。増築されたのかしら?」
「たしかに、一年前に訪問したときには無かった部屋だわ…」
アリスとイザベラが天井の大きなシャンデリアを見上げた。
「…そのようですよ。アベル公爵様がコンテストに出場なさることを聞いて、ご主人様は急遽このお部屋をお造りになったそうです。…私はこのコンテストのために三ヶ月前に雇われたので、詳しくはわかりませんが…」
アリスたちを案内した召使いの女性が、笑顔で二人に話しかけた。
「…ありがとう……。あなた…お名前は?」
アリスが召使いに近づきながら、パチンッと指を鳴らす。
するとラビがアリスに何かを差し出した。
「わ…私…ですか?……ロ…ローラ・リュステイカ…でございます…」
「初めまして、ローラ。良かったら…このコンテストの期間、私に付いてくださいません?…お礼はこれくらいで…いかがかしら?」
ラビから小切手とペンを受け取ると、アリスは小切手に金額を書き込み、それをそのままローラの手に握らせた。
「…こ…ここ…こんなに……どうして…?…う…受け取れません…」
ローラは小切手に書かれた金額を見るなり、口をパクパクとさせ、手をカタカタと振るわせた。
「私…従者をとらない主義で、身の回りのことは全てこのラビ一人に任せてるのだけど……慣れない場所でしょう?…この屋敷をよく知っている方に、いろいろとお願いしたいのですわ…」