偽りロマンチカ
「ごめんなさい…」
ぴちゃっと水溜りの泥水を飛ばしながら走り去っていく絵里さん。
取り残された彼はとても小さく見えた。
あたしは、とんでもない現場を見てしまったのかもしれない。
こういう時、どうすればいいんだろう。
罪悪感を持って、知らないフリをしてこの場をさるか。
けれどあたしはそうすることを選ばなかった。
あたしは最悪な事をしたと思う。
彼の弱みにつけこむなんて。
あたしは隠れていた車からしゃがんでいた足を立たせ、そっと雨に濡れる彼に近づくの。
そして全ての偽りの始まり。
「奥村君。」