偽りロマンチカ
「キスしたら、もう帰ってくれる?」
そう言った俺を見て、一瞬ビクリと肩を揺らす。
そんな朱里を見てフッと笑い、朱里の頬を包み顔を近づける。
けれど、次の瞬間
パシンッと音と共に、俺の頬には痛みが走っていた。
「いっ…て…」
「そういう事、付き合ってからしてほしいんです」
さっきまでの怯えたような顔はなく
ニッコリと笑いながらそう言う朱里に、ただ俺は唖然とする事しかできなかった。
今でも思う。
あの時、朱里と出会ったのは偶然だったのかもしれない。
そして、あの時抱いた朱里への思いも偶然だったのかもしれない。
でも、その偶然に今ではとても感謝している。
だってもしこの偶然がなかったら、あんなに真っ直ぐストレートに当たってくる子に出会うことはなかったんだから。