偽りロマンチカ



「キスしたら、もう帰ってくれる?」




そう言った俺を見て、一瞬ビクリと肩を揺らす。


そんな朱里を見てフッと笑い、朱里の頬を包み顔を近づける。


けれど、次の瞬間




パシンッと音と共に、俺の頬には痛みが走っていた。




「いっ…て…」


「そういう事、付き合ってからしてほしいんです」




さっきまでの怯えたような顔はなく


ニッコリと笑いながらそう言う朱里に、ただ俺は唖然とする事しかできなかった。




今でも思う。


あの時、朱里と出会ったのは偶然だったのかもしれない。


そして、あの時抱いた朱里への思いも偶然だったのかもしれない。


でも、その偶然に今ではとても感謝している。


だってもしこの偶然がなかったら、あんなに真っ直ぐストレートに当たってくる子に出会うことはなかったんだから。



< 25 / 41 >

この作品をシェア

pagetop