君が君を好きになって。
「…ちょ…ちょっと部屋戻りません?」
今度は菜束が葉太の腕を引っ張って同室の二人の部屋へと引きずり込んだ。
「葉太は何処から見てたの?」
「お姉ちゃん今日授業午前だけでさ、遊んでから帰ってきたみたいなんだよね。俺が帰って、ちょっと龍雅と遊んでから塾行こうと思ったら、来たんだよー!」
龍雅というのはマンションの三階に住む葉太の幼馴染みのことで、良く遊んでいる仲のようだった。
「茶髪ピアス氏が?」
「お姉ちゃんとね?」
「成程。で?」
「…や、何か、『夏実のー彼氏やってます、安藤っす』みたいな感じで。あ、これは盗み聞きなんだけど」
「それはお母さん怒るね」
二人で力無く笑っていると、バタバタと三人の足音が響いた。
慌てて二人でドアに耳をくっつける。
「ママ!ちゃんと話聞けって!」
「帰って!うちの娘にはもう近付かないで!貴方それがどんなに大変なことになるか知ってるの!?」
「…意味分かんねーし…」
「そんなこと言っても私ら絶対別れないから。…行こ」
「ちょっと夏実!」
派手に扉が閉まる音がした。
夏実が彼氏を連れて家を飛び出したのだろう。