君が君を好きになって。

「菜束」

マンションに足を踏み入れる直前だった。

「───お姉ちゃん?」






「ママ…何か言ってる?」

「お母さん?別に何も…」

「───…そ」

「あ、っでも心配してるよ?見てれば判る…お姉ちゃんのこと」

夏実は少し下に目線を移すと、瞬きをした。

「ふーん…父さんは?」

「お父さんは私も見てないから判らないよ、私の中では」

「…まぁあれでしょ?別に私が居る居ない関係無いんでしょ」

「…そんな…こと」

「──判ってる!今更敢えて聞いた所で何も無いって!昔から判ってたんだよ!菜束も葉太もママも父さんも…大っ嫌い!嫌いなんだよ!」

夏実はとても痛そうだった。
辛そうで、悲しそうだった。

なのに菜束は何も言えなかった。
そんな自分に苛立った。

「…ごめんなさい」

菜束も、痛かった。

「…私、────────かな」

菜束が驚いて顔を上げたときには、

夏実は居なかった。












…私、彼氏と蒸発しちゃおうかな






そう言い残して。


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