君が君を好きになって。
観光都市で営む喫茶店。
そのバイトの男の子の話だった。
菜束は碧に借りた漫画を読んで、少し頭を整理しようと思っていた。
すごく面白い話だった。
悪意を持って暴れだした人形。
熊の着ぐるみを頭だけ被る父親。
鳩と呼ばれる店長。
「面白い…」
菜束は呟いてから恥ずかしくなった。
誰もいないこの環境で独り言だなんて、と。
菜束と夏実は血が繋がっていない姉妹だった。
菜束が産まれる少し前、母と夏実の父が離婚した。
双方の浮気。
どちらが悪いとか、最早関係無かったという。
そして母は実業家の菜束の父と結婚して、菜束が生まれた。
夏実と父は打ち解けられていない。
夏実を心配するのは菜緒子しかいなかった。
夏実はそのことで菜束や葉太によく暴力をふるった。
でも、菜束は何も言わなかった。
夏実の言う事は正しいのだから。
「浮気者の娘息子(コドモ)」
「あんたは金目当てで生まれて来た」
「生まれてくる筈じゃなかったのに」
でも、
菜束は辛かった。