君が君を好きになって。
「あ、綿貫に教えて貰ったんです」
「あぁ、文化祭一緒だって言ってたね」
──綿貫が私の話を?
「もしかして今日は弾かない日…だった?」
「ううん?弾き、ます」
「!えと…」
ガチャッ。
白羽は半歩音楽室に入ってから振り向いた。
「この前──何か好きな曲とかあった?」
「これは、この前の曲と作曲家が一緒で…」
「全然、聴いたことない…」
菜束がドアの近くに立っていると、白羽は気付いたように立ち上がって椅子を出した。
「もっとこっち来ればいいのに。来れば?」
「気を遣ってもらっちゃって…」
「あはは、低姿勢」
穏やかな人だった。
ピアノの弾き方とは違っている。
もっと固くて、怖い人かと菜束は思っていた。
「美術部でしょ?コンクールに出るって前聞いてさ、名前知ってたんだ」
「私の名前を?」
「うん、漢字」
白羽はまた立ち上がると、黒板を向いてチョークを握って二文字書いた。
『児玉』
「こっちじゃないって知って覚えた」
「成程ですね」