君が君を好きになって。
「…そっか。ありがとう」
「ううん、ううん!」
「昔から彼奴にだけは何しても勝てなくて。なのに憎めないからさ、どうしようもなくて」
菜束にはふと疑問が浮かんだ。
「?ピアノ…は?」
白羽が顔を上げる。
「…あおはピアノ弾けるよ。俺なんかよりも上手に」
「え…───」
意外。
菜束は何と言ってよいものかと戸惑った。
白羽は菜束に気付いてシャツの襟を正す。
「…本人はピアノ嫌いみたいだけど、ね」
「そう、なんだ…」
「──小玲ならあおにピアノ弾かせられるかも知れない」
菜束が上げた顔。
白羽がうつ向いた。
「えっ?」
「頑張って」
白羽の笑みに菜束はうまく応えられなかった。
何を言っているのかがまず分からない。
「私が何を…」
「え?好きなんでしょ?」
「──…誰を?」
「綿貫碧のことを」
「え…ぇえええっ!?好き!?好きなのかな…いや好きっていうかええ!?」
「小玲こんなキャラだっけ」
「誤解…じゃない?」
「少なくとも俺には、そう見えたから。じゃあ」
白羽はこちらを見ず手を振って行ってしまった。
「好きって…」