君が君を好きになって。
「そういえば、漫画返さなきゃ…」
菜束は漫画の入った袋を手にして美術室を出た。
「体育館でいいのかな」
菜束は校舎を後にする。
「む…無理矢理って…」
「…だから無理矢理お」
「い…言わんでいい!ちょっと退きましょう、千幸。外ですし」
千幸は碧の手首を握り締めた。
「外じゃなきゃいいの?」
──俺、墓穴掘ってるー!
何とか手首を回して抜けようとするものだが、やはり体制がものを言った。
もう一度、と碧は腕に力を入れた。
「千幸!」
───パ シ ン ッ
力を込めた手が跳ね返って運悪く千幸の頬に当たってしまう。
「…──っ」
泣かせてしまった?
碧は千幸を覗き込むようにして肩に手を置いた。
「ちさ…」
千幸が目を瞑ったと思った。
千幸との距離が短くなったと思った。
千幸の顔が離れるまで碧は、
キスされていたなどと気付かなかった。