君が君を好きになって。

碧は起き上がると菜束の持つ袋を見つけた。

「あ、それ返しに来たの?」

菜束は袋を持ち上げた。

「うん、それでこっちに来たんだけど…」

「そう…───あーぁ、別に殴りたくて殴った訳じゃ無いのになぁ」

「見てた人代表としては、故意ビンタには見えませんでした…」

「故意ビンタ?あはは、うん」

千幸…とは誰なのか。
それが菜束には気になって仕方が無かった。

「…元カノさん?」

「さーぁ…俺にも良く分かんなくて。別にどっちからも好きなんて言ってなくてさ。一緒に居た頃はあんな奸悪な奴だと思わなかったなぁ」

「奸悪って…凄い言葉使う…」

「腹黒って言えば良かったかな」

「一緒じゃない」

笑った菜束に碧も笑い返して、菜束から袋を受けとる。

「じゃー俺部活戻るわ!小玲見てく?」

「あ、ううん。また明日ね」

「了解!」


笑顔で手を振って、駆け出した君は、どんな心を抱えていたのだろう。
君の心が傷付いて、どうしようもならなくなっていたのに、私は馬鹿みたいに気付かなかった。





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