君が君を好きになって。
──なんかこの人、透明人間みたい…。
言い方がおかしいような気がする。
何故だか、纏っている空気の色が違うというか、普通の人とは掛け離れていると菜束は感じた。
「あ、えっと…探しものをしてまして、たどり着いたら音楽室に入れない空気…で」
「探しもの…まさか本?」
「え、はい。本、です」
本といえば本であり、資料だというものには資料でもある。
中学生までの格好いい台詞。
…ではなくて。
「何かこう…分厚い感じの。オペラだっけ?はい」
少年改、恩人が肩に掛けていた鞄から探しものが登場した。
トン、と音が立つほど分厚い資料なのだ。
よく鞄に入ったなと菜束は思った。
「ありがとう…どうして持ち運んでたの?」
「“中”の人も同じやつ持ってるから、もしや、と」
“中”とはそのピアノを弾く人物のことなのだろう。
「凄く楽しそうだな…て思って、見てたんです、けどね」
菜束がそう言って笑うと、少年はすごく不思議な顔をして、
一歩歩いたと思ったら、ドアノブで固まっていた菜束の手の上からドアノブを回した。
今まで菜束は男の子の手を触ったことなどなかった。だから菜束は驚いて心臓が消滅するかと思った。